042 星々の舟/村山由佳

星々の舟 Voyage Through Stars (文春文庫)
星々の舟


 この間読んだ「空中庭園」と同じく、こちらも「家族」をテーマにした物語。
といっても話の雰囲気はずいぶん違うけど。


直木賞受賞作だからってわけでもないけど、
この作品は間違いなく村山由佳の1つの到達点だと思う。
連作短編モノなので、1篇ずつ感想をば。


雪虫
  次兄・暁の物語。
 兄妹愛という、一歩間違うとものすごく「イタい」話になりそうなんだけど、
 そこは作者の筆力の見せ所というか。
 とにかく、せつないお話。
 1話目の主役ということもあってか、次男の暁は全体を通して話の軸にいる。


・子どもの神様
  末妹の美希が主役。
 家の中ではお調子者で通っているが彼女には彼女の抱える闇が・・・というお話。
 ハッピーエンドとはとても言い難いんだけど、美希という強いキャラクターのおかげで、
 爽やかな印象を受ける。


・ひとりしずか
  暁への思いが未だに断ち切れないでいる沙恵のお話。
 「決して叶わぬ恋」という使い古されたテーマだけどもせつない。
 とにかくせつない。


・青葉闇
  長兄・貢の話。
 「すべての雲は銀の・・・」でもそうだけど、作者はどうも年配の男性キャラを使って
 農業の魅力とかそれを通じて人生とは、といったことを語らせたがるきらいがある。
 自身も千葉で農業をやってるためだろうか。
 そのせいか他の物語に比べると若干浮いてる気がする。
 嫌いではないのだけれど。


・雲の澪
  貢の娘・聡美のお話。
 若者特有の悩みという、作者が書き慣れたテーマ。
 これも話し全体から見るとちょっと浮いてる気がする。
 まぁ連作っていうのは、そういうものなのかもしれない。
 せつないお話。


・名の木散る
  最後は一家の主である重之の物語。
 他の話では悪者として描かれがちな重之だが、視点を変えるとまた違ってくる。
 最後にちょろっと暁も出てきて、この物語がきれいに締まる。
 重之の言う、

幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない

 というのがこの小説のテーマ。
 とにかくせつないお話。オススメ。